退職を軸に見た秒速5センチメートルは鬱アニメではない、これからを生きる希望がもらえるアニメである - 肉うどん

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退職を軸に見た秒速5センチメートルは鬱アニメではない、これからを生きる希望がもらえるアニメである



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少し前に会社を退職し、現在は早めの夏休みを謳歌しています。この世には仕事を辞めたら退職エントリなるものを書く習わしがあるようですが、仕事については守秘義務もあって特に書くことがないので、秒速5センチメートルの話を書いて退職エントリに代えようと思います。

秒速5センチメートルはよく鬱アニメと言われますが、退職を軸に見るとそうではないように見えてくるという話をさせていただきます。

※この記事は新海誠監督のアニメ映画「秒速5センチメートル」のネタバレを含みます。ご注意ください。

なぜ鬱アニメと言われるのかの整理

「来年も一緒に桜、見れるといいね!」

秒速5センチメートル (00°00′51″)

秒速5センチメートルは全3話の短編の連作で構成されています。その第1話から貴樹がいつか明里と結ばれるであろうと予測させ、予測を裏切り第3話で文字通りすれ違って終わるのが、秒速5センチメートルが鬱アニメといわれる所以でしょう。

2話でモブに「あいつ絶対東京に彼女いるよ」と言わせてみたり、3話で明里が結婚するという事実だけ先に出したりして視聴者の期待感を煽ったり、その後に落とすための割としっかりした心理誘導をしてるんですよね。その点では鬱アニメ・鬱映画と言えるかと思います。

友人A「あいつゼッタイ東京に彼女いるよ」

秒速5センチメートル (00°28′41″)

(明里の左手の薬指の指輪が光る)

秒速5センチメートル (00°51′39″)

わざわざ指輪を光らせて強調する演出が憎い。

もちろん2話での謎ポエムや、†出さないメールを打つ癖がついた†といった不穏要素もあり、振り返ってみれば警戒は可能ではありました。しかし先にモブから「あいつ絶対東京に彼女いるよ」と言われているのを聞いていると、そのように印象操作されてしまい、初見ではなかなかオチを想像できないんじゃないでしょうか。ここが上手い。

余談ですが、このあたりの展開は計算で作られているのが伺えるので、よく言われる新海監督の恋愛観がどうとかいうのは的外れなような気がしています。秒速5センチメートルは新海監督特有の気持ち悪さが全面に出た作品だ、あれは監督の恋愛観だの実体験に基づくのではないか、だのと言われているのをよく見ます(新海誠監督の作品が大好きで、君の名は。で主演もした神木隆之介も実体験ではないかというようなことを言っていました)が、監督はもっとドライに見ているというか、お話に必要な装置だから描いているにすぎないように思います。

「上書き保存」も「名前をつけて保存」もできなかった想い

秒速5センチメートルは「女は上書き保存」「男は名前をつけて保存」という俗説になぞらえて男の妄執が気持ち悪いと叩く人もいます。しかしこの物語は、想いが強すぎて上書きできないし、名前をつけて保存しようにも容量が足りなくてできないから苦しんでいるお話なんですね。

名前をつけて保存できていれば、2話で花苗と幸せになって平和に終わっていました。実際、明里は別の人と幸せになっています。

気持ち悪いと思うのは自由だし、誰にも送らないメールを書いては消しをしているのは実際キモいが、「名前をつけて保存」になぞらえるのはそもそも解釈が誤っていると思います。

労働はすべてを上書きする

そして、ここからが重要ですが、そんな強い想いですら激務には勝てませんでした。労働はすべてを上書きします。仕事に追われ、いつしか自分には何もなくなっていることに気づき、だから貴樹は定職をやめました。やはり労働は害悪である。これこそが新海監督が真に伝えたかったテーマなのではないかと! 私はそう考えています。

言の葉の庭にも職場でいじめに遭って退職した人が出てますね。新海監督にとって退職が重要なテーマであることが伺えます。

かつてあれほどまでに真剣で切実だった想いが

綺麗に失われていることに僕は気づき

もう限界だと知ったとき

会社を辞めた

秒速5センチメートル (00°54′33″~44″)

実際のところ貴樹が仕事の何に苦しんでいたのかは映画の中ではダイジェストすぎて分かりません。小説版漫画版ではその内容までしっかり描かれているものの、それを映画と同一視していいのかは微妙なところです。激務でメンタルがやられて辞めたのだとすれば、本当の意味で鬱アニメと言えるかもしれませんね!

ただ落として終わりではない。その先が大事

狙って落としていますが、落とすことは最終的な目的ではなく、それでもそれを振り切って生きていく、というところにまで注目してほしいです。

退職による破壊と再生こそがむしろ物語のメインではないかという気すらしてきます。恋が終わっても、仕事を辞めても、そこで人生が終わるわけではないですよね。生きていれば嫌なこともありますが、いつでもそこからまた別の道を歩めるんですよ。

秒速5センチメートル (00°59′45″)

明里らしき人が過ぎ去ったのを少し残念そうに見送り、しかし追わずに前へ進む貴樹の、この笑顔である。ああ、辞めてもいいんだ、と勇気がもらえるシーンです。

なおラストシーンの貴樹は(私と違って)無職ではなく、フリーのプログラマ的な在宅勤務のようです。働き方改革のお話だったんですね。自分の裁量で働きつつも、平日昼間からプラプラできるのって最高ですよね。

初恋と将来の夢の近似について

秒速5センチメートルは主軸としては恋の物語がありますが、これは子供の頃の夢を分かりやすい形に表した比喩表現に近いのではないかと考えています。なんとなく断ち切れずに抱えたままになっている、子供の頃の夢が叶わなければ不幸なのか? 生きていくうちに夢が変わってもいいのではないか……。そのようなメッセージが含まれているように見えます。

将来の夢の分かりやすい形としての初恋があり、そしてそれが叶わなくてもこれから幸せになれる、そう希望を持ってこれから生きていく、というストーリーなのではないでしょうか。

おわりに

人が会社を辞める理由は様々あると思いますが、仕事がプライベートに侵食してきてメンタルがヤバになるくらいなら、そうなる前に辞めたほうがいいですね。

「かつてあれほどまでに真剣で切実だった想いが、綺麗に失われていることに僕は気づき、もう限界だと知ったとき、会社を辞めた」。このセリフ、私も初見当時は「ふーん」としか思わず、その後の展開のほうに面食らっていた1人です。しかし何回も観ていると、この部分がどんどん味わい深くなってくるのでオススメです。初回視聴の印象にとらわれず、ぜひ何回も観てほしい映画です。

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